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【Vol.8】 マクロ経済をみる上でのキーワード① 「BRICs」
マクロ経済をみる上でのキーワード① 「BRICs」


■BRICsは世界経済地図を塗り替え、将来わが国の外需を支える期待大
前回・Vol.7におきましては、中長期でマクロ経済をみる上でのキーワードを2つ挙げさせていただきました。今回・Vol.8ではそのなかのひとつ、外需面で大きな影響を及ぼすことが予想される「BRICs」について、その概略とわが国経済へのインパクトをご説明させていただきます。まず、BRICsとは、ブラジル・ロシア・インド・中国の4カ国を指し、今後経済発展が大いに見込める有力な新興国のことです。多くの人口、広い国土、豊富な資源などを有し、政治的な影響力も強い大国という面も併せ持っています。実は、BRICsという言葉は造語で、一昨年秋、ゴールドマン・サックス証券(米国)が『Dreaming with BRICs:The Path to 2050(BRICsとともに見る2050年への道)』という投資家向けレポートで初めて用い、以降広く使われるようになりました。レポートの内容は、BRICsの4カ国が世界経済地図を大きく塗り替えるという予測で、2039年には、これら4カ国を合わせた経済規模が、現在の経済大国である米国、日本、ドイツ、フランス、イギリス、イタリアのG6を上回ること、2050年には、国別の経済規模が、1位・中国、2位・米国、3位・インド、4位・日本、の順になることなどが記されています。BRICsの4カ国は2003年時点で、世界人口の42.7%、国内総生産(GDP)の8.1%、対内直接投資の10.3%を占めるに至っています。すでに中国では外資が殺到、経済成長率9%を超える水準が続いていることは皆様もご存知のことと思います。昨年、日本最大の貿易相手国が米国から中国に代わるなど、米国一辺倒だったわが国の外需を中国は強く支えてくれました。他の3カ国も、近い将来プラスのインパクトをもたらす期待が大きいといえるでしょう。さて、地理的にも極めて近く、急成長を遂げている中国につきましては、皆様も新聞等のメディアを通じて情報を得ていらっしゃることと存じます。ここでは他の3カ国の概況を探り、世界経済に与える影響やわが国に対するインパクトを探ってみたいと思います。


■ブラジル:日本とは補完関係にある伝統的な友好国、重い債務負担がリスク
ブラジルは、鉄鉱石などの資源のほか、大豆などの農産物の生産が盛んで、資源大国として世界の注目を集めています。最近では、商品市況の高騰を受けてこれらの輸出額が急増し、景気の牽引役を担っています。かつては高インフレの時代や、モラトリアム(対外債務の支払い停止)を唱えていたルーラ現大統領の就任にともなう株価や通貨の急落といった事態もありました(2002年)。もともと、ブラジルにはGDPの6割に相当する膨大な政府の公的債務があります。そのため、国際金利情勢に大きく左右され、現在のような世界的な低金利状態にある環境下でどれだけ債務を削減できるかが、同国がいかに安定的に成長できるかのカギを握っているといえそうです。わが国とは、1895年に外交関係を樹立、活発な要人往来、140万人に及ぶ海外で最大の日系社会を築いたことなど、伝統的に強い友好関係にあります。地理的には遠い位置にありますが、貿易面では互いに補完し合う関係にあるため、わが国経済に対するプラス・インパクトは着実に高まっていくと考えられます。


■ロシア:政治的リスクは付きまとうが、世界第2位の産油国で、西欧諸国の視線が熱い
ロシアは、世界第2位の産油国で、第1位のサウジアラビアとはほぼ拮抗する産出量を誇っていることを、皆様はご存知でしょうか。そのため、ロシア経済に占める石油関連産業のウエイトは高く、2000年ごろからの原油価格上昇によって経済は潤い続けています。その結果、税収の回復によって財政が立ち直り、1998年のロシア危機を完全に乗り越えて、とりわけ西欧諸国の信用を取り戻すことに成功しました。一方では、2003年に「ユーコス事件」が発生しました。ユーコスは石油の大手企業でしたが、経営者のホドルコフスキーが司法当局によって突然逮捕・起訴され、同企業は巨額の追徴課税を強いられたあげくに解体されてしまいました。この裏側には、ホドルコフスキーが政治的野心を抱いたため、プーチン政権が報復したという事情があるようです。このように、先進国では考えられない政治劇が起こるなど、今でも政治的リスクが非常に大きいといった点が懸念材料となっています。わが国は、ロシア危機の際に金融機関が大きな痛手を被ったため、投資には及び腰な面がみられます。しかしながら、最近では、油田の開発に関連するプラント企業や建機メーカーが、ロシア市場で大きな収益を上げていますし、輸入車・前年比40%増を背景に、トヨタ自動車が現地生産に乗り出す方針を固めるなど、積極的に進出を図る例が増えてまいりました。


■インド:将来の消費大国、優秀な低コスト労働力も魅力、一方カースト制度が国の成長を構造的に妨げる可能性も
インドは、10億人強に及ぶ低コストの労働力に加えて、高い英語力と優秀な理工系の人材が、経済の魅力となって注目されています。欧米企業などと連携したIT関連産業は、こうした人材を武器に国全体の成長を牽引し、現在のGDPでサービス産業が占める割合は50%を超えるまでに至っています。製造業では、特許切れの医薬品製造に強く、生産量は世界第4位を誇っています。一方、農業に従事する人口が7億人にのぼり、降雨量が減れば収穫量に影響、たちまち農民の所得減につながることから、国全体の消費活動が急減速するという脆さも併せ持っています。経済政策では、長期にわたる国家主導を90年代に転換し、市場経済を導入しました。ところが、今でも民主主義とカースト制度による差別が共存していて、社会構造や国内の社会的・経済的格差の大きさにおいて、異質であることに注意が必要です。わが国では、成長が期待される自動車産業において、スズキが乗用車市場で55%のシェアを握り(2003年)、ダイハツや日産も参入を計画しています。自動車市場は年率20%近い伸びを続け、また、携帯電話の新規加入数は昨年だけで1,300万人以上の増加を示すなど、中国同様に世界の大消費市場となる兆しが見え隠れしています。さらに、一人っ子政策による弊害で急速な高齢化が懸念される中国に対し、インドは人口大国でありながら、今後も順調に人口が増え続けることが見込まれ、国連による試算では2035年には中国を抜いて世界一になるとのことです。わが国にとりましては、将来中国を凌ぐ消費大国として重要な輸出先になるばかりでなく、労働力不足にともなう人材の供給源としても重要な国となる可能性があります。



図表:BRICs各国の主要指標


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