地価ニュース

特集・上昇広がる地価の最新動向⑥

◎高級系ホテルに勢い、欧米富裕層ら支持

―円安、コロナ明けの反動増など追い風―

　外資系を中心にラグジュアリーホテルの勢いが増している。国策で訪日客を招く流れに円安やコロナ明けの反動増などが加わり、稼働率とＡＤＲ（客室平均単価）の上昇が顕著だ。昨年4月に入国規制が撤廃され、23年通年の訪日外国人消費額は5兆円超と過去最高に。中国の団体客が減った分を欧米や東南アジアなどの富裕層らが補う構図で需要が高まる。都市部では京都や東京、リゾート地ではニセコや白馬などの外資系ホテルが訪日客らを引き付けている。

　大手デベロッパーでは森トラストが高級ホテルに重点投資する。15年に開いた「翠嵐ラグジュアリーコレクションホテル京都」では23年通年のＡＤＲが対19年比で6割高まった。伊達美和子社長は「欧米のホテルの単価は東京以上であり、日本のホテルには上げ余地がある」と説く。昨年8月にマリオットの最高級カテゴリの「紫翠ラグジュアリーコレクションホテル奈良」を開業。今冬にはＩＨＧホテルズとのＦＣ契約で「ホテルインディゴ長崎グラバーストリート」をオープンする。既存の約30軒に加え、今後は軽井沢や箱根、沖縄など20カ所以上で事業化する。一方、ヒューリックは箱根や日光、京都、奈良などの行楽地に高級温泉旅館「ふふ」を積極展開する。いずれも1軒あたりの客室数は20～40室、平均客室単価は10万～30万円程度。25年には東京・銀座と三浦半島の城ヶ島にも開業する。

　ジョンズラングラサールホテルズ＆ホスピタリティ事業部の大橋蔵人氏は「ニューヨークなど海外の大都市に比べ東京には高級ホテルが少ない」と指摘。同社関西支社の山口武氏も「今後円高に触れても高級系の需要は落ちない」と日本市場を有望視する。

　京都では3月にＪＲ京都駅付近に開業したヒルトンのアップスケールホテル「ダブルツリーｂｙヒルトン京都駅」が「春の観光時期で予約が多い」（同社）と好発進した。事業主の大和ハウスリアルティマネジメントから運営を受託。大阪でも同ブランドの「ダブルツリーｂｙヒルトン大阪城」が5月1日に開業する。大和ハウス工業の流通店舗事業本部は「（ヒルトン大阪城は）1月に予約を始めたばかりで、団体客の予約は今後増えてくる」と2年目以降を見据える。中・長期の滞在にも対応し、将来的に稼働率を80～85％まで引き上げる目標だ。一方、積水ハウスは「Ｗ大阪」や「ザ・リッツ・カールトン京都」、「ウェスティンホテル横浜」などマリオットの複数ブランドを展開する。同社開発事業部は「訪日客が増え、都市部の全てのラグジュアリーホテルで稼働率が改善し、営業利益ベースで黒字化した」と強い手応えを感じている。

◎分譲コンドミニアムにも強い引き合い

　高級ホテルブランドのコンドミニアムにも国内外の富裕層らが食指を動かす。リストデべロップメントは長野県白馬村で38室のコンドを2月に売り出した。販売価格は8000万円から2億7000万円台。同村で初のラグジュアリー物件。3月中旬時点で複数の成約がある。12月の開業までに完売を見込む。リストグループは北海道・ニセコでも販売仲介の実績が豊富だが、12億円の超高級物件なども含め売れ行きは底堅いという。ただ積雪の多いニセコでは建築費の高騰と人手不足が顕著で、リストインターナショナルリアルティは「坪単価1000万円を下回る案件は採算面で新規開発が難しい。開業遅れや保留の案件も複数ある」と打ち明ける。

　投資市場ではロードスターキャピタルが存在感を増す。ひらまつ（東京・渋谷区）が運営する三重県志摩市や静岡県熱海市、京都市などの6軒を7月に取得する。都市部でホテルの稼働が改善し、物件価格は上昇。そのぶん新規取得は難化するが、岩野達志社長は「宿泊単価はもう一段階上がりそうで、今年はまだ買える」と強気の姿勢だ。ＪＬＬの大橋氏は「海外の投資家がホテルを買う動きは弱く、多くのファンドが今は売り時と見ている」と分析。外資が引いた間隙をぬって国内勢が買っているという側面もあるようだ。

（提供：日刊不動産経済通信）