Vol.70 清水美砂さん
Vol.70 2025/08/19更新
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清水美砂(しみず・みさ)
1970年生まれ。東京都出身。1987年デビュー。1989年にはNHK 朝の連続テレビ小説「青春家族」のヒロインを務める。数多くのドラマや映画で主演、助演を務め、日本アカデミー賞新人俳優賞、日本アカデミー賞優秀主演女優賞をはじめ、数々の映画賞を受賞。20年間の海外生活を経て、2024年より本格的に活動を再開。
20代後半までは都心のマンションに住み、女優の仕事に打ち込んでいた清水美砂さん。結婚を機に、さまざまな場所を転々とする生活になり、家への向き合い方がガラリと変わりました。今では大がかりなDIYもこなすという清水さんに、暮らし方の変化について伺いました。
都心のマンションからアメリカの自然の中へ。
念願の一軒家は驚きの連続

17歳でデビューした時は、家族で都心のマンションに住んでいました。NHK朝の連続テレビ小説『青春家族』に出演していた時も、自宅から路線バスでNHKまで通ったんです。朝ドラをご覧になっている方たちから、声をかけられることもよくありました。その後も、いろいろなドラマや映画に出演させていただいて仕事が順調だったこともあり、一人暮らしを始めようと18歳の誕生日に実家を出ました。兄が18歳の誕生日に実家を出たので、私もそれにならったんです。清水家のしきたりみたいなものでしょうか(笑)。でも、当時は仕事が忙しく、家探しは母に任せて、見つけてくれたのが実家の3軒隣のマンションでした。何かあればすぐに帰れる距離なので、母も安心だったと思います。とはいえ、私にとっては初めての「自分の家」。自分専用のキッチンがあって、なんでも好きなようにできる住空間ができたことにワクワクしました。ただ、当時は映画を3本くらい撮影していて本当に忙しく、あまり家で過ごせませんでした。帰ってきて2、3時間寝たらもう朝で、支度してロケに出かける毎日。本当に寝に帰るだけの家でした。その後1、2回引っ越しましたが、ずっと実家の近所のマンションでした。当時、仕事には電車とバスで通っていたので、都心で交通の便がいい実家周辺が好都合だったんです。
そんな生活が一変したのは、28歳で結婚してからです。アメリカ人の夫が仕事で本国に戻ることになり、彼が仕事に集中できるよう主婦として支える覚悟で、一緒に渡米しました。家庭を持ったことで一軒家への憧れが一気に強まり、予算を決めて夫と家探しを始めました。私は幼少の頃からアパートやマンション住まいだったので、「家」のイメージはアニメの「ドラえもん」で見た、のび太君やしずかちゃんのおうち。あまり細かいこだわりはなく、どの部屋にも自然光が入るような、明るい家が理想でした。幸運なことに、とてもいい家と出会って初めてマイホームを購入しました。うれしかったですね。木の家で、家の中は暖炉の周りが天井まで石造りになっている、すごく素敵なおうち。自然が豊かな土地で暮らしたのも初めてでした。「コンコンコンコン︕」とキツツキが家を突いて穴を開けてしまうんですよ(笑)。穴を修理しつつ、キツツキの天敵であるフクロウの置物をあちこちに置いて対策しました。夜になるとアライグマが屋根を歩き回るので駆除をお願いしたり…。「自然の中で暮らすって、こういうことなんだ」と実感しました。でも、楽しかったし、とてもいい場所でしたね。
時間をかけて2軒目の家を購入。
自分でリフォームするDIY文化がより身近に

夫が日本に赴任することになり、アメリカの最初の家は帰国前に売却しました。アメリカでは買った家にずっと住むというより、自分たちで手直しして、なるべく高く売り、また次の家を買うという考え方が主流なんです。DIY専門店も充実していて、夫はまさに「直して売って、次」のタイプ。床が古くなっていたのでタイルに変え、壁もリフォームして売り出しました。
2005年に日本に帰ってきてから2010年まで、神奈川県の逗子で見つけた丘の上の賃貸住宅に住みました。周りは豪邸ばかりでしたが、うちは庶民的な、小さな庭付きの4LDK。子どもはまだ小さかったので、まず通う学校を決めて、歩いて通える地域に家を探していました。治安がよく遊び場が近い、子育てしやすい場所。逗子の家は、夫がぴったりの物件を不動産屋さんで見つけて、その日に契約していました。
逗子に5年住んだあと、主人がハワイに異動になりました。やはり子どもの学校を第一に考えて家を探しましたが、ハワイは不動産が驚くほど高くて、家を購入する気になれず賃貸住宅を借りました。2年半後、アメリカ本土に戻ってからは、1年ほどかけてじっくりと家を探し、ようやく気に入った物件を見つけて購入。引っ越したその日から、夫が壁や天井をはがして、リフォームを始めてしまいました。寝室とキッチンの一角は手を付けないようにして、あとは全部、自分たちで直したんです。
ご近所にあいさつに行くと、自分で直したという自慢のキッチンを見せてくれるところから始まります。アメリカでは、これが一般的なんだと勉強になりました。今では物件を選ぶ時の視点が、日当たりがよく、躯体がしっかりしていて、間取りが気に入るかどうか、だけ。「あとは自分たちで直せるから」と考えるようになりました。夫は家具も、素敵なものを見つけると、「こうやって作れそう」と自分で作ってしまうんです。私もすっかり感化されて、結婚するまでは普通の役者だったのに、夫と一緒にテーブルを作ったり、家をリフォームするようになりました(笑)。
家はエネルギーを与えてくれる場所。
感謝して大切に扱いたい

そのあとも、夫の仕事でいろいろな場所を転々としました。オランダにも行きましたが、住宅事情がまた違って、おもしろかったですよ。オランダ人は平均身長が高くて、女性でも170cm以上はあるんです。家も天井が高く、3階建ての大きな建物が一般的。それが、ずらっと何軒も繋がっているんです。一軒家はほとんど見かけず、二世帯住宅のように2軒で1つの建物になっていたりして、中は広く中庭もあるんですが、なぜか階段はすごく狭いという、不思議な間取りでした。
こんなふうに、全く違う環境への引っ越しを繰り返していたので、子どもたちにはストレスを感じさせないようにと、安心して帰れる家づくりを意識していました。たくさん光が入って、明るくあたたかい雰囲気になるよう家の中を改造して、玄関にはお気に入りのリースや「Welcome︕」と書かれた小さな旗を飾りました。子どもたちが大きくなるまで「ただいま」「おかえり」の声かけも大事にしましたね。家に帰ってきたときに声をかけ合うのは、家族の繋がりを感じることでもあり、住む家に感謝することでもあると思うんです。だから、私1人の時でも「ただいま︕」「おかえり︕」と一人二役でやっています(笑)。家は私たちにエネルギーを与えてくれる場所ですから、家に感謝して、長く使えるよう大事に扱うことで、エネルギーが循環するような気がしています。
これまで何度か家を買い替えましたが、一番印象に残っているのが、すごくいい建物なのに内見したときに、何か重たい空気を感じた物件。「よし、私たちでいい家にしよう」と、家族でにぎやかに楽しく暮らし、家の中も夫と作り変えました。最終的には売ってしまったのですが、内見に来る人来る人、みな「欲しい」と言うんです。この家の良さがようやく引き出せたと、すごくうれしかったですね。
2021年に家族で日本に帰ってきたのですが、2年後に夫がアメリカ勤務になり、子どもたちは就職や留学で家を出たので、私は自分のやりたいことをしようと、日本に残ることにしました。夫もいずれ日本に住む予定なので、それに備えて空き家バンクで物件を探しているところです。夫もアメリカからインターネットで検索して「ここはどう︖」と提案してきます。彼は日本が大好きなので、「サムライが住んでいそうな門構えがいい」などと、夢がふくらんでいるようです。老後は自分の家を好きなように直したり、家具を作ったりして暮らせたらいいね、なんて話しています。
こぼれ話
「普通の役者」だった清水さんは、ご主人の影響ですっかり「DIYの達人」になってしまったそう。
家の内装に始まり、家具も作れるようになったとか。
上から①アメリカの自宅でリフォームした玄関の床、壁。②ご主人自作の家具は現在も大活躍。③清水美砂さん自作の写真立て。
INFORMATION
講談社「別冊フレンド」で大人気連載中の漫画『隣のステラ』(講談社/餡蜜著)が映画になった︕ 今をときめく若手俳優としてスターへの道を走り出した昴と、その幼なじみの女子高生・千明。幼なじみでありながらも“芸能人と一般人”というもどかしい関係となってしまった2人の、ピュアで真っ直ぐな恋の様子を描いた切ない超王道ラブストーリー。清水美砂さんは主人公の母親役で出演。清水美砂さんの普通のお母さんも見どころの一つです︕
映画『隣のステラ』
8月22日(金)から公開
©餡蜜/講談社 ©2025 映画「隣のステラ」製作委員会
監督︓松本花奈
出演︓福本莉子、八木勇征ほか
原作︓餡蜜『隣のステラ』(講談社「別冊フレンド」連載)