Vol.11 野口健さん

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インタビュー 私のいえ ∼すまいの履歴書∼ 各界でご活躍の方々に、家、住まいに、住み替えにまつわるお話を伺いました。インタビュー 私のいえ ∼すまいの履歴書∼

Vol.11 2013/4/24更新

『過酷なときこそ、気持ちをオフにできる住空間が大切です。』 野口健さん

『過酷なときこそ、気持ちをオフにできる住空間が大切です。』野口健さん

profile
野口健(のぐちけん)
登山家。1973年、アメリカ・ボストン生まれ。父が外交官であったため、幼少時代は世界各国を転々とする。高校在学中に植村直己氏の著書と出会い登山を始め、25歳で7大陸最高峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。その後は、山岳活動を続けながら、エベレストや富士山などのゴミ問題にも取り組んでいる。

世界の名だたる山に登頂し続けてきた野口健さん。想像を絶する過酷な環境に挑むためにはベースキャンプでの過ごし方が極めて大切なのだそう。登頂成功のカギを握るともいえる、そのこだわりについてお話をうかがいました。

宿舎、豪邸、寮生活...住む場所が転々と変わった子ども時代

野口健さんの写真1
子どもの頃を振り返る野口健さん

父が外交官だったので、幼少時代はほとんど海外で過ごしました。生まれはアメリカ、ボストンですが、生後5か月くらいにはサウジアラビアへ移り、その後は、日本、エジプトなど、引っ越しばかり。小学校6年生の後半からは、父が移動するたびに転校をしていられないということで、イギリスの全寮制の学校に入り高校3年生まではその寮で過ごしました。当時は、学校が長期休暇になると父親の住んでいる家に帰るのですが、それも毎回違う国で、一か所に長く住むということはまったくありませんでした。
物心ついたときには、世田谷にあった公務員宿舎に住んでいましたね。決して広いとは言えない、無機質なコンクリートの壁が連なったいわゆる団地だったんです。ところが、エジプト人だった母親はそれに味気なさを感じたんでしょう、部屋の中の壁を全部黄色に塗り、その上に絵を描いたんです。「グレー」が幅をきかせる建物の中でここだけ別世界。近所の友達がいつも見学に来ていました。日本にいながらそんな中東のような空間で過ごしたことを覚えています。
そのあとに住んだエジプトの家は、めちゃくちゃ大きい!公使公邸ですからリビングは200人くらいの人たちが集まれるような広々とした場所。子どもの僕にとっては自転車乗り場でしたけど(笑)。 そんな大豪邸のような住まいから一転、次はひと部屋に2段ベッドが20個くらい連なる、寮生活になるんです。それまでは、自分の部屋にトイレまでついていたのに、今度はプライベートなどまったくない厳しい共同生活でした。
日本の宿舎からエジプトの広大な家へ、そして寮生活...。そのたびに住む場所も生活スタイルもガラリと変わって、カルチャーショックを受け続けていた子ども時代でしたね(笑)。

ベースキャンプでは、日常に近い雰囲気を作ることが大切

野口健さんの写真2
テントの様子を話す野口健さん

高校生のときに登山を始め、25歳のときにエベレスト登頂に成功しました。
エベレストに登るときというのは、標高5300メートルくらいのところに、ベースキャンプと呼ばれる中継基地を作ります。そこを拠点に上り下りを繰り返し、体を低酸素に慣らしながら2か月ほどかけて頂上を目指していくんです。
ベースキャンプより上は、いつ何があるか分からない危険な場所ですから、常に緊張状態。酸素が薄いため、ものすごく頭も痛くなりますし、精神的にも追い詰められていきます。だからベースキャプに戻ったときには、気持ちを休めなくてはいけないんです。
ずっと緊迫した精神状態では、とうてい2か月も持ちません。ベースキャンプでリラックスして、上に登るときはまた戦闘モードに切り替える。そのコントロールがうまくできるかどうかが、極めて大切なんです。
だからこそ、ベースキャンプの空間づくりが重要で、可能な限り普段の居住空間と近い雰囲気を作るということが不可欠。そこで私の隊ではテントを個々に設置してプライベートの空間を大事にしています。日本隊は大きなテントに雑魚寝というのが普通なんですけどね(笑)。私のテントには、母が送ってくれた中東の柄が入った赤いカーペットを敷いたり、いろいろな匂いのお香を焚いたり、ときには組立式のパイプベッドを持ち込むこともあります。食事も大切で、同行するシェルパに日本料理を覚えてもらい、シェフとして料理を担当してもらっているんです。食器も、アルミの器ではあまりにも味気ないうえに冷たいですから、漆の器やそば用のざるまで持ち込んでます。そこだけ見たら、“ここがエベレスト?”と思うほど、食べ物も設備も充実しています。

欧米人から学ぶ、厳しい環境で生き抜く術

野口健さんの写真3
ベースキャンプについて語る野口健さん

べースキャンプは国によってまったく雰囲気が違うんです。今は徐々に変わってきましたが、かつての日本隊というのは、あくまでもストイックで真面目。それに対して、欧米人はプライベートの空間を大切にします。服装は日常に近いラフな格好に着替え、中にバーカウンターを作っていた隊もありました。私も、国際隊のメンバーとしての参加が登山のスタートだったので、欧米スタイルを経験していますが、彼らの、厳しい状況のなかでもエンジョイするテクニックは本当に参考になります。実際、精神的に追い詰められてしまった人ほど、遭難しています。過酷な環境であることは誰もが一緒です。その状況の中で精神的なバランスを保つために、ゆとりある空間を演出することこそ、生きる術であり登頂成功のカギなんです。
今の自宅は、玄関を開けると中東を思わせるようなエキゾチックな雰囲気が漂っています。天井は高くて無駄に広いから、暖房効率も悪く住みにくいんですけど(笑)、ひと目見た瞬間にひかれるものがあり、即ここに住むと決めました。幼い頃の海外や日本での住まいや寮生活、さらにテントでの暮らしを経験していますが、どうも、エジプトの豪邸を目の前にしたときの感激が抜けてないんですね(笑)。

こぼれ話

ベースキャンプで撮影した一枚。お母様が送ってくれたという赤いカーペットが敷かれたテント内は、意外にも広々している。「ベースキャンプではできるだけ日常に近く、くつろげる場所を作ることがこだわりです。日本隊にとってはこういった空間が珍しかったようで、見学に来る方もいるんです」

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